朝。
昨日の爆発事件は、体育館のある南校舎が僅かに焦げただけという噂を聞いた。
補修やマスコミ対策やらで少なくとも一週間休校されるようで、寮生達の多くは実家に帰っていった。
堀田もその帰省組の一人だ。

「なぁ、ハルは実家帰らねぇの?」
大きなボストンバッグを抱えた堀田が、昼食を終えた俺に問いかける。
「帰らない」
いつものトーンで返す。
「そうかー、お土産買ってくるからなぁ」
「じゃあ高いのを頼む」
「安いので十分だ」
今まで何度もしてきたやり取り。互いに笑い合う。
「気をつけろよ」
「おう」
大きなバッグを抱えた数十人に堀田が加わり、駅行きのバスに乗るため寮を去った。
普段は賑やかな寮が、一気に静かになる。
リビングでテレビを見ている一団に俺を含めれば、現在寮に残っている学生のほとんどを賄えるだろう。
特にする事も無く、俺の好きな番組は一団の趣味に合わないらしいので部屋に戻ることにした。
黒く焦げた校舎に警察らしき大勢の人が出這入りしているのが窓から見えた。

「……どうなるのかな、学校」
勉強嫌いの俺がなんとも優等生なセリフと思いついたものだ。
「……どうすればいいのかな、これ」
俺に背を向けて部屋中を興味深そうに眺めているのは我がアニマの猫ちゃん(名称不明)。
<兄弟!これは何ですカ?>
あーそれはねー、と返すのがめんどうになるほどに同じ質問を食らっている。
子供を博物館に放り込んだような輝く瞳で……まぁ顔は仮面で見えないが、なんとなく楽しそうである。
「ああぁそのへん触ると崩れるって」
はい、とこっちを向いたのはいいが猫ちゃんの尻尾にひっかかり無残にも崩れ落ちる教科書。
<あわわわわ、申し訳御座いませン兄弟!>
教科書を拾い上げ、元に戻す猫ちゃん。親戚の子を預かったような状態の我が部屋。

そもそもこいつ何なんだろうな、アニマとか言ってたけどアニマって何だろう。
「ねぇ」 ベッドに腰かけ、問いかける。
<はイ> 教科書を物珍しげに眺めていた顔が向けられる。
「……えーと、名前はなんていうの?」 とりあえず呼び名は知っておきたい。
<兄弟が決めて下さいナ>
「えっ!?」 いきなりそんな事言われても。
<今すぐじゃなくてもいいんですヨ> 笑いながら教科書をめくる猫ちゃん。
「ん、うん、そう」 名前か。
自身にそういったセンスがあるとは考えられないので、目についた入学祝いの国語辞典を手に取る。
適当にめくったページの、というかなり投げやりな方法で猫ちゃんの名前を決める事にした。ごめん適当で。
指に軽く力を込め、ゆっくりと開く。……"そ"。その中でも後半部分を選んでいた。

「ソリトン」 その中でも気に入ったものをぽつりと口にする。
<ソリトン? 何ですかそれハ> 教科書から顔を上げ、こちらを見つめる。
「名前、今決めた ……暫定的に」
<ワタシのですカ! いい名前ですねェ!> 顔は分からないが、声音からすると気に入ってくれたようだ。
「適当に決めたんだけどね」 何だか申し訳なくなってくる。
空中に指で何か書いている"ソリトン"は前にも増して楽しそうだ。

「あのさ、えーと、ソリトン」 そうだ。
<はイ?> 声音が高い。
「ソリトンって、あのー、アニマなんでしょ? アニマって何?」 聞かなければ。
<……それはワタシに聞かれても困りまス、兄弟だって人間って何?って聞かれたらどう答えるんでス?>
「あー」 そうか。
自分で理解しろって事か。

見つかると騒がれるのは必至なので部屋から出るな、と言ったら素直にそうしたソリトン。
俺の描いた絵を観るのに異様な時間をかけるソリトン。
お面取っていい?と聞いたら即答で断ったソリトン。
寮に戻ってくるときはいつの間にか消えていたのに部屋に戻ったら俺より先にくつろいでいたソリトン。
どう見ても異様なパートナーだが、うまくやっていけそう……な気がする。



次→まだ
































キャッチ!!

ミソ