時は春の終わり。
桜もとっくに散り、地面に色を落としたまま次の息吹を待っている。
運動場では1年生が慣れない練習を、泥だらけになりながら頭に叩き込んでいる。
東館から下手な管楽器が迫る発表会を恐れながらも懸命に、奇妙なハーモニーを奏でる。
裏山からさわさわと、歓声や応援歌を歌うかのように木々のざわめきが微かに聞こえる。
その木々達の後ろから赤くなった太陽が今日の勤めを終え、ゆっくりと落ちていく。
そんな四方から迫る音や色に、俺は西館4階の美術室で呆けながら浸っていた。
目の前には提出が2週間後に迫ったアクリル画。
中途半端に塗られた右半分が、さっさと完成しろと怒号を送る。
2週間もあれば出来るだろう、そんな根拠の無い自信が筆を遅らせる。
それでも自分の思い通りにはいかなくて、多少の焦りは少なからずあった。
むしろ焦りが自信を崩していた。
「……どうしようかな、ここから」
誰かに助言を貰いたくても部屋には俺一人。
中学5年に上がり専門学年になったとしても、美術専攻はどうやら俺を含め3人。
しかも2人は寮生では無いのできっと今頃優しい綺麗なおかーさんから
「おやつよ、ごんべえちゃん」と言われロココでシックなクラシックを聞きながら後ろにはじいやがいて……
あぁ、行き詰ってる。一体何がしたいんだ俺は。
寮に戻りたくても何かのプライドが許さない、優柔不断な俺。
さぁどうする俺、画材を片付けるのはすぐに終わるぞ、そして美術室に鍵かけて……
「ハルーっ? お前まだやってたのかよ、もう7時過ぎてるぞー」
「……
冷静に返したつもりでも、俺が完全にびびっていたのを親友にはやはり、ばれる。
「へいへい、わかりましたぁ
「へいへい、これしか取得が無いもんでねぇ〜 全く英語に関してはほんと頑張るよな、お前って」
画材を片付けながらふざけ合う。 これでキリがついたと自分で自分に言い聞かせながら、ふざけ合う。
「なぁ、またゲームしねぇ?」
暗くなった廊下を2人で歩きながら、片手は鞄を持ち、片手は何かを操作するように動かしながら彼は言った。
「いいよ、俺の部屋?」
決まり文句を言うと、いぇ〜す♪、と聞くだけで性格が分かるような明るい声が左側から聞こえてきた。
途中、俺達2人の笑い合う声は何人に聞こえていただろうか。
校内にある四角い3階建て。 ……つまりは学生寮。
目的地はそこの107号室。 ……つまりは俺の部屋。
部屋の電気を付けると2段ベッドに1つの机、数多くの本は兵隊のようにぴっしりと並び、持ち主が手に取るのを待っている。
「相変わらず几帳面だな…… あいつはお前を見習って欲しいよ……」
彼のルームメイトが過度のぐうたらなのを俺は知っている。 運が悪かったと思え。
「はっはっは、美術専攻の威力を見ろや〜」
自分でも何が言いたいのか分からないが、本来2人部屋なのを俺1人で使っているのは事実だ。
まぁ、単に定員割れしているだけだが。
テレビを付け、チャンネルを”ゲーム”に合わせる。
ここからは男と男の戦場であり、究極の趣味の場である。
「俺こいつ使う〜♪」
「じゃあ俺これ使う」
「うわっ、ずっりぃ〜 お前これ使えよ」
「しょうがねぇなあ、負けても文句無しだぞ」
「いいよ、絶対ぇ負けねぇし」
毎度毎度の光景である。
ちなみに俺がこれから使うのは最弱キャラ。負けても俺のせいじゃない。
暴力と暴力とがブラウン管の中でぶつかり合う。
「おっしゃ、爆弾拾ったし」
「うは、やべぇし俺!! 外せ!! 当てんな!!」
「はっはっは、答える必要は無いっ!!」
相手に向けて爆弾を放り投げる。 綺麗な曲線美を浮かべて飛ぶ爆弾。
相手に迫る爆弾。 着弾すると思ったその瞬間、
窓から白い閃光が飛び込み、
何かが湧き上がるような轟音が響き、
地をうねるように揺るがす衝撃を感じた。
神が鉄槌を振り下ろしたかのように。
微かに他の部屋から驚嘆の声が聞こえたが、
俺達2人は何も言わずただ赤く燃える校舎を見つけ、今何が起きたかしばらく飲み込めずにいた。
「……爆発?」
「……だよ、な?」
互いに視線を合わせずに言葉を交わす。
しばらくテレビから勝利のファンファーレが陽気に流れた。
廊下から悲鳴が聞こえる。
「なぁ、
金山、つまりは彼の彼女の名を出すと、彼ははっとしたような顔を一瞬、した。
「俺、見てくる!!」
愛の力は偉大だ、彼は弾けたように部屋から飛んでいった。
部屋に一人残された俺は、学校を蝕むように喰らう赤い炎を窓越しにじっと見ていた。
ふと気づくと、俺と同じ様に炎を見つめる誰かが目に入った。
学生服を着た、誰か。
野次馬にしては落ち着いた風貌と、何か言いようの無い違和感がその背中から発せられていた。
右手にアーチェリーの弓を持っている。
しばらくは気づかなかったが、この学校にアーチェリー部は無い。
それに気づいた瞬間、一瞬こちらに顔を向けた。
笑っている。
その誰かは、校門に向かって走って行った。
俺は、その誰かを追おう、そう誰かが俺の脳に命令をかけたかのように飛び出した。
次→
キャッチ!!
ミソ